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岡山地方裁判所 昭和53年(ワ)633号 判決 1982年2月03日

原告

山形康夫

ほか二名

被告

株式会社白藤金物店

主文

一  被告らは各自、原告山形康夫に対し、金一〇三九万二三三九円並びに内金九七九万二三三九円に対する昭和五三年一一月四日から、内金六〇万に対する昭和五七年二月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告山形一樹に対し、金五七九万〇七三九円並びに内金五三九万〇七三九円に対する昭和五三年一一月四日から、内金四〇万円に対する昭和五七年二月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告山形康夫及び同山形一樹のその余の請求並びに原告山形洋子の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告山形康夫及び同山形一樹に生じた費用の五分の二と被告らに生じた費用の五分の二を被告らの負担とし、原告山形洋子に生じた費用と被告らに生じた費用の五分の一を同原告の負担とし、原告山形康夫及び同山形一樹並びに被告らに生じたその余の費用を同原告らの負担とする。

五  この判決は、一項及び二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自

(一) 原告山形康夫に対し、金二四二〇万円並びに内金二二〇〇万円に対する昭和五三年一一月四日から、内金二二〇万円に対する判決言渡の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を、

(二) 原告山形一樹に対し、金一五四〇万円並びに内金一四〇〇万円に対する昭和五三年一一月四日から、内金一四〇万円に対する判決言渡の日の翌日から各支払済みまで前同割合による金員を、

(三) 原告山形洋子に対し、金一一〇〇万円並びに内金一〇〇〇万円に対する昭和五三年一一月四日から、内金一〇〇万円に対する判決言渡の日の翌日から各支払済みまで前同割合による金員を

それぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

(一) 日時 昭和五一年八月二九日午後五時四〇分頃

(二) 場所 岡山県倉敷市広江七丁目二番一号先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(岡五の八六六〇号)

右運転者 被告三宅健(以下、被告三宅という。)

(四) 被害車 普通貨物自動車(岡四四ね一四八三号)

右運転者 訴外山形菅一(以下、訴外菅一という。)

(五) 被害者 原告山形康夫(以下、原告康夫という。)

同 山形洋子(以下、原告洋子という。)

訴外亡山形壽子(以下、訴外亡壽子という。)

(六) 事故の態様 前記場所の交通整理の行われていない交差点(以下本件交差点という。)において、南進中の加害車と東進中の被害車とが出会頭に衝突したもの。

2  責任原因

(一) 被告株式会社白藤金物店(以下、被告会社という。)は、加害車の所有者であり、同車を自己のために運行の用に供していたものである。

(二) 被告三宅は、同人の進行道路からみて、その交差道路の見通しが悪いのであるから、本件交差点に進入しようとする際は、交差道路を通行する車両等に注意し、徐行しながら進行しなければならない注意義務があるのに、これを怠り、左右の安全を十分確認することなく、時速三〇キロメートルの速度で本件交差点に進入した過失により、本件事故を惹起したものである。

3  損害

(一) 亡壽子関係

(1) 亡壽子の死亡

亡壽子は、本件事故により、脳挫傷・頭蓋骨々折の傷害を受け、昭和五一年八月二九日、倉敷市水島の水島中央病院に入院したが、同月三一日同病院において死亡した。

(2) 亡壽子の損害額

イ 治療費 金一二万一九六〇円

ロ 付添費 金七五〇〇円

医師が付添看護を要するとした三日間、亡壽子の義母である訴外山形トミが付添をしたので、その一日当りの付添費金二五〇〇円の割合による三日分

ハ 入院諸雑費 金一八〇〇円

一日当り金六〇〇円の三日分

ニ 休業損害 金二万九七〇六円

亡壽子は、夫である原告康夫及びその両親とともに、原告康夫の住所地において民宿「山形荘」を営んでおり、昭和五一年六月一日から同年八月二八日までの八九日間の右民宿経営による収入総額は金三六八万四五〇〇円、右期間の必要経費は金一四八万一二五〇円であつたから、右民宿経営による一日の収益は金二万四七五五円となるところ、同女の右民宿経営における寄与率は四〇パーセントとみるのが相当であるから、同女の一日当りの収入は金九九〇二円となり、休業損害はその三日分に相当する。

ホ 死亡による逸失利益 金四九七〇万九三九六円

亡壽子は、本件事故当時二三歳であり、六七歳に達するまでの四四年間就労が可能であつたから、この間の逸失利益の現価は、同女の年間の収入金三六一万四二三〇円(前記日収の三六五日分)から生活費四〇パーセントを控除し、新ホフマン係数を用いて算出すると、前記の金額となる。

へ 葬儀費 金四〇万円

ト 慰藉料 金八〇〇万円

生後三か月の長男である原告一樹を残し、二三歳という若さで死亡した亡壽子の精神的苦痛を慰藉するには、金八〇〇万円をもつて相当とする。

(3) 損害賠償請求権の相続

亡壽子の夫である原告康夫及び同女の子である原告一樹は、同女の被告らに対する損害賠償請求権をそれぞれ相続分に応じて相続した。

(二) 原告康夫関係

(1) 原告康夫の傷害及び後遺障害

原告康夫は、本件事故により、左腓骨々折・左足内踝骨折・左肩鎖関節亜脱臼及び全身打撲等の傷害を受け、その治療のため、昭和五一年八月二九日から同年一二月二七日までの一二一日間、倉敷市水島の協同病院に入院し、同月二八日から昭和五二年五月二日までの間同病院に通院して治療を受けた(治療実日数は六四日。)

右傷害により、原告康夫は、左足関節の機能に著しい後遺障害を残し、その程度は、自賠法施行令二条後遺障害別等級表(以下、等級表という。)第一〇級に相当する。

(2) 原告康夫の損害額

イ 治療費 金七七万九九七〇円

ロ 付添費 金二万五〇〇〇円

医師が付添看護を要するとした一〇日間、訴外森初江が付添をしたので、その一日当りの付添費金二五〇〇円の割合による一〇日分

ハ 入院諸雑費 金七万二六〇〇円

一日当り金六〇〇円の一二一日分

ニ 通院費 金三万五八四〇円

前記病院までのバス往復運賃金五六〇円の六四日分

ホ 休業損害 金二七三万二九五二円

原告康夫は、前記のとおり、亡壽子及び自己の両親とともに民宿経営をし、これによる一日当りの収益は金二万四七五五円であり、原告康夫の右民宿経営に対する寄与率は四〇パーセントとみるのが相当であるから、同人の一日当りの収入は金九九〇二円となり、休業損害はその二七六日分に相当する。

へ 後遺障害による逸失利益 金二一四三万四九二〇円

原告康夫は、前記のとおり、等級表第一〇級に該当する後遺障害を残し、これにより少なくとも労働能力の二七パーセントを喪失したものである。同人は、本件事故当時二六歳であり、六七歳に達するまでの四一年間就労可能であるから、労働能力喪失による逸失利益の現価を新ホフマン方式により計算すると、金二一四三万四九二〇円となる。

ト 慰藉料 金三四四万円

前記入・通院期間中の精神的苦痛に対し金一四三万円、前記後遺障害による精神的苦痛に対し金二〇一万円、合計金三四四万円をもつて慰藉するのが相当である。

(三) 原告洋子関係

(1) 原告洋子の傷害及び後遺障害

原告洋子は、本件事故により、顔面及び後頭部切創・左上腕肘・左膝関節部打撲挫創及び頸椎捻挫の傷害を受け、その治療のため、昭和五一年八月二九日から同年九月二一日までの二四日間、倉敷市水島の協同病院に入院し、同月二二日から昭和五二年五月九日までの間同病院に通院して治療を受けた(治療実日数は一一五日)。

右傷害により、原告洋子は、後遺障害として外貌に醜状を残し、その程度は、等級表第一二級に相当する。

(2) 原告洋子の損害額

イ 治療費 金二〇万九三九〇円

ロ 付添費 金二万円

医師が付添看護を要するとした八日間、訴外三宅美保が付添をしたので、その一日当りの付添費金二五〇〇円の割合による八日分

ハ 入院諸雑費 金一万四四〇〇円

一日当り金六〇〇円の二四日分

ニ 通院費 金一万六一〇〇円

同病院までのバス往復運賃金一四〇円の一一五日分

ホ 休業損害 金四二七万三〇四二円

原告洋子はスナツクの経営者であり、事故前八九日間の収入総額は金二〇八万八九〇〇円、右期間の必要経費は金五九万一六〇〇円であつたから、同女の右スナツク経営による一日当りの収入は金一万六八二三円となり、休業損害はその二五四日分に相当する。

へ 後遺障害による逸失利益 金一八三一万六六八三円

原告洋子は、前記のとおり、等級表第一二級に該当する後遺障害を残し、これにより少なくとも労働能力の一四パーセントを喪失したものである。同女は、本件事故当時二八歳であり、六七歳に達するまでの三九年間就労可能であるから、労働能力喪失による逸失利益は、新ホフマン方式により計算すると金一八三一万六六八三円である。

ト 慰藉料 金二〇六万円

前記入・通院期間中の精神的苦痛に対し金一〇二万円、前記後遺障害による精神的苦痛に対し金一〇四万円、合計金二〇六万円をもつて慰藉するのが相当である。

(四) 弁護士費用

原告らは、表記訴訟代理人に本訴の提起・追行を委任し、報酬の支払を約した。そのうち、原告康夫につき金二二〇万円、同一樹につき金一四〇万円、同洋子につき金一〇〇万円は、被告らに負担させるのが相当である。

4  損害の填補

亡壽子の損害のうち金一八一〇万八八八〇円、原告康夫の損害のうち金七八八万八〇七五円、原告洋子の損害のうち金四二七万〇二九八円が、いずれも自賠責保険金の支払によつて填補された。

5  結語

よつて、被告ら各自に対し、

(一) 原告康夫は、右損害賠償請求金のうち金二四二〇万並びに弁護士費用を除く内金二二〇〇万円に対する本訴状送達の日の翌日である昭和五三年一一月四日から、弁護士費用二二〇万円に対する本判決言渡の日の翌日から、

(二) 原告一樹は、右損害賠償請求金のうち金一五四〇万円並びに弁護士費用を除く内金一四〇〇万円と弁護士費用一四〇万円に対する各同日から、

(三) 原告洋子は、右損害賠償請求金のうち金一一〇〇万円並びに弁護士費用を除く内金一〇〇〇万円と弁護士費用一〇〇万円に対する各同日から、

それぞれ支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び4の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)は認め、(二)は否認する。

3  同3の事実のうち、(一)(1)は認め、(四)は争う。その余の事実はすべて知らない。

三  抗弁

1  (被告三宅の無過失)

被告三宅は、制限速度である時速三〇キロメートル以下で自車を運転、走行し、本件交差点手前で右方道路から進行して来る訴外菅一運転車両を発見するや直ちに急制動の措置をとつたが、そのまま同車が接近、衝突するに至つたものである。同車の進路上、本件交差点手前には一時停止の標識があり、いかなる車両もこれに従つて停止することが当然に期待されるから、被告三宅としては、右標識を無視して交差点内に突入して来る車両のあることまでを予測し、予め自車を徐行させるべき義務はない。しかも、自車の進路はかなりの上り勾配であつて、時速三〇キロメートルに近い速度を維持しなければ、自車そのものが停止する状況にあつた。したがつて、同被告には何ら運転上の過失はなく、右一時停止標識を無視して漫然と本件交差点に進入した訴外菅一にこそ過失があり、かつ、右過失が専ら本件事故の原因をなしたと言うべきである。

2  (過失相殺)

仮に被告三宅にも若干の過失があつたとしても、右のとおり、訴外菅一の過失の重大さは否定できない。そして、原告康夫は訴外菅一の実弟、同洋子は同人の妻であり、かつ、右原告ら及び亡壽子は菅一運転車両のいわゆる好意同乗者であつたから、菅一の右過失は被害者側の過失として、原告らに対する損害賠償の額を定めるにつき十分に斟酌さるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の主張は争う。

2  同2のうち、原告らと訴外菅一との身分関係及び原告らと亡壽子が被害車に便乗していたことは認めるが、その余の主張は争う。仮に訴外菅一にも何らかの過失があつたとしても、同人の弟である原告康夫やその妻亡壽子についてまで、これを被害者側の過失として論ずることは、公平を損うものであつて失当である。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実については当事者間に争いがない。

二1  請求原因2(責任原因)の事実のうち(一)(被告会社が加害車の所有者、運行供用者であること)は当事者間に争いがない。同(二)(被告三宅の不法行為責任)の事実について判断するに、成立に争いのない乙第七、第一〇、第一一、第二二、第二四、第二五、第三一及び第三二号証、被告三宅本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

本件交差点は、倉敷市呼松方面から同市児島方面に向かう道路(以下被害車進行道路という。)と、同市広江五丁目方面から鷲羽山スカイライン北ゲート方面に向かう道路(以下加害車進行道路という。)とがやや斜めに交わる交差点であつて、信号機による交通整理は行われていない。被害車進行道路の幅員は五・九ないし六・六メートル、法定制限速度は時速三〇キロメートルで、本件交差点手前(東西両側)に一時停止の道路標識が設置されており、かつ、その西側の標識付近には、路面に「止マレ」との表示が施されている。一方、加害車進行道路の幅員は七・一メートル、法定制限速度は時速三〇キロメートルであり、本件交差点付近は北方から南方に向けて一〇〇分の一二の上り勾配となつており、そのことと道路脇の雑草のため、被害車進行道路(右方)に対する見通しは良好とはいえない。ところで、被告三宅は、加害車進行道路を時速約三〇キロメートルの速度で南進し、本件交差点の直前に差しかかつた際、右前方約一六メートルの地点を右方の被害車進行道路から一時停止することなく時速約三〇キロメートルの速度で本件交差点に進入しようとする被害車をはじめて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、被害車と衝突した。

右のように、加害車進行道路は優先道路ではなく、被害車進行道路に比し明らかに幅員の広い道路でもないのであり、かつ、右方被害車進行道路に対する見通しもよくないのであるから、右道路に一時停止の標識がある点を考慮に入れても、本件交差点に進入しようとする被告三宅としては、交差道路である被害車進行道路を進行して来る車両の有無・動静に十分注意し、適宜減速・徐行して進行すべき注意義務があつたというべきである。ところが被告三宅は、右注意義務を怠り、右方の安全を十分確認することなく、何ら減速措置をとらず、時速三〇キロメートルのまま本件交差点に進入したことが認められるから、この点過失の存在は否定できず、かつ、その過失が本件事故発生の少くとも一因をなしたものと認められる。右認定に反する被告三宅本人尋問の結果は措信することができず、他に右認定を左右すべき証拠はない(抗弁1の無過失の主張は採用することができない。)。

2  そこで、抗弁2(過失相殺)の主張について判断するに、前掲各証拠によれば、訴外菅一は本件交差点手前に前記一時停止の標識及び路面上の停止表示があることを認めながら、一時停止することなく時速約三〇キロメートルの速度で本件交差点に進入したことが認められ、右認定を左右すべき証拠はない。右事実によれば、訴外菅一の過失は重大であり、これが本件事故の一原因をなしたことはもとより、被告三宅の過失と対比してもその程度は大きいと言わなければならない。前掲各証拠にあらわれた一切の事情を考慮し、被告三宅、訴外菅一双方の過失割合は、被告三宅が二五パーセント、訴外菅一が七五パーセントと認めるのが相当である。

ところで、民法七二二条二項の「被害者の過失」には、被害者本人のみならず、これと身分上ないし生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失、すなわちいわゆる被害者側の過失をも含むと解するのが、損害負担の公平の理念にかなうと考えられる。そして、本件において、訴外菅一運転の被害車に同乗していた原告洋子は同人の妻であつて生活をともにしていたことが認められるから、同原告の本件交通事件による損害賠償額を定めるについて、訴外菅一の過失を被害者側の過失として斟酌すべきである。しかし、他方、原告康夫は訴外菅一の実弟、亡壽子は康夫の妻(菅一の義妹)にあたるものの、生活・職業等を菅一と共同にしていたものではなく、たまたま当時被害車両に便乗していたに過ぎないと認められるから、前述の意味における一体関係を肯認するには足りない。このような場合にまで「被害者側の過失」を拡大することは、被害者の救済という損害賠償制度の基本目的と隔たるところが大きく、採ることができない。結局、過失相殺の主張は、原告洋子の損害についてのみ理由があり、原告康夫及び亡壽子のそれについては理由がないことに帰する。

三  請求原因3(損害)について

1  亡壽子関係

(一)  請求原因3(一)(1)(亡壽子の死亡)の事実については当事者間に争いがない。

(二)  請求原因3(一)2(亡壽子の損害額)について

(1) 治療費 金四万五六八八円

成立に争いのない甲第三号証によれば、治療費(室料差額、死後処置料を含む。)は金一二万一九六〇円であるが、その内金七万六二七二円は社会保険給付として病院に支払われたことが認められるから、被告らに請求しうべき損害賠償額は、右治療費総額から保険給付額を控除した金四万五六八八円と認めるべきである。

(2) 付添費 金七五〇〇円

成立に争いのない甲第二号証並びに弁論の全趣旨によれば、亡壽子は重症のため付添看護を要すると指示され、事故当日から死亡までの三日間、同女の義母が付添をしたことが認められる。その一日当りの付添費は金二五〇〇円と認めるのが相当である。

(3) 入院諸雑費 金一八〇〇円

亡壽子が三日間入院したことは当事者間に争いがなく、右期間中少くとも一日六〇〇円の割合による合計金一八〇〇円の諸雑費を要したことが推認される。

(4) 休業損害 金一万一二一六円

原告康夫及び同一樹は、亡壽子の休業損害及び逸失利益の算定基礎となる収入につき、民宿「山形荘」の経営収益によるべきである旨主張するので、この点について検討するに、証人山形慶一の証言により真正に成立したものと認められる甲第二〇及び第二三号証、同証人の証言、原告康夫本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。すなわち、昭和五〇年八月一五日、山形慶一はその名義で営業許可を得て民宿「山形荘」を開業したが、右民宿の建物建築等開業準備に約五〇〇〇万円を要し、そのうち少くとも二〇〇〇万円は玉野信用金庫からの融資を得てまかなつた。右民宿は客室八室、収容人員三〇ないし四〇名であり、山形慶一・トミ夫婦が調理等の、原告康夫・亡壽子夫婦が客の接待、観光地案内及びマイクロバスによる送迎等をそれぞれ担当していた。そして、その営業成績は概ね順調であり、昭和五一年六月一日から本件交通事故前日の同年八月二八日までの総売上げは金三六八万四五〇〇円であつた。一方、右民宿経営による必要経費としては、毎日の飲食物の仕入れ代金の外に、玉野信用金庫からの借入の返済金、建物、マイクロバス、什器及び寝具類等の購入ないし維持・管理費、光熱費などがあり、これらは相当多額にのぼるものと推認される。

ところが、前掲甲第二〇及び第二三号証に基づく原告ら主張の必要経費は、毎日の飲食物の仕入れ代金のみであつて、前記のような諸経費の大半を欠落しており、営業収支の実態を示すものとは到底認めるに足りない。その他、右民宿経営による純益を知るべき資料はないから、結局、この点(ひいては亡壽子の寄与額)の立証は不十分と言わざるを得ない。

したがつて、同女の休業損害の算定は、昭和五一年度賃金センサス第一巻第一表(以下賃金センサスという。)の女子労働者の年齢別平均給与額に基づくのが相当である。成立に争いのない甲第一九号証によれば、亡壽子は本件事故当時二三歳であつたから、入院三日間の休業損害は、右賃金センサスによる二三歳の女子労働者の平均給与月額すなわち一か月金九万〇九〇〇円に一年間の賞与金三〇万円の月割額金二万五〇〇〇円を加えた金一一万五九〇〇円の三日分金一万一二一六円(円未満四捨五入、以下同じ。)と認められる。

(5) 逸失利益 金一九一二万八七八五円

前記説示のとおり、亡壽子の死亡による逸失利益の算定に関しても、賃金センサス女子労働者の年齢別平均給与額を基準とするのが相当である。したがつて、同女の就労可能年数六七歳まで四四年間の逸失利益の現価は、賃金センサス女子労働者二三歳の年間平均給与額一三九万〇八〇〇円から生活費として四〇パーセントを控除し、新ホフマン式計算方法(新ホフマン係数二二・九二三)により中間利息を控除して算出される金一九一二万八七八五円となる(計算式は次のとおり)。

1,390,800×0.6×22.923=19,128,785(円)

(6) 葬儀費

亡壽子の葬儀に要した費用を同女自身の損害と認めることは困難であり、この点原告の主張は採用できない。もつとも、本件においては、葬儀費が同女の損害にあたらない場合は、実際の負担者である原告康夫において請求する趣旨を含むと解されるから、同原告の損害の関係で後に検討する。

(7) 慰藉料 金七〇〇万円

前掲甲第一九号証及び弁論の全趣旨によれば、亡壽子は、夫康夫及び生後三か月の長男一樹を残し、二三歳という若さで死亡したことが認められ、その他、本件にあらわれた一切の事情を考慮し、その精神的苦痛を慰藉するには、金七〇〇万円が相当と認める。

(三) 請求原因3(一)(3)(損害賠償請求権の相続)の事実は、前掲甲第一九号証によつて認められる。すなわち、亡壽子の被告らに対する損害賠償請求権につき、原告康夫はその三分の一を、同一樹はその三分の二をそれぞれ相続したものである。

2  原告康夫関係

(一)  成立に争いのない甲第四ないし第六号証、同第一〇号証、乙第一二号証及び同第一六号証並びに原告康夫本人尋問の結果によれば、請求原因3(二)(1)(原告康夫の傷害及び後遺障害)の事実が概ね認められる。

ただし、後遺障害の程度については、同原告が本件事故の翌々年には肩書住所を離れて名古屋市方面に赴き比較的自由な生活をしていたとみられること、現在では住所地で前記民宿の経営を手伝い、自動車の運転も可能になつていること等に照らすと、直ちに等級表一〇級該当とするには疑問がある(この点、逸失利益・慰藉料等の算定にあたり考慮すべきである)。

(二)  原告康夫の損害額

(1) 治療費 金二三万五二五一円

成立に争いのない甲第七ないし第九号証によれば、治療費は金七七万九九七〇円(室料差額を含む。)、そのうち保険給付額は金五四万四七一九円であることが認められるから、同原告の治療費負担による損害額は金二三万五二五一円となる。

(2) 付添費 金二万五〇〇〇円

成立に争いのない甲第四号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告康夫は、入院当初の一〇日間付添看護を必要とし、その間訴外森初江が付添つたことが認められる。右付添費としては、一日二五〇〇円の割合による一〇日分合計二万五〇〇〇円と認めるのが相当である。

(3) 入院諸雑費 金七万二六〇〇円

原告康夫が一二一日間入院したことは前記認定のとおりであり、右期間中、入院生活に必要な雑費として一日少くとも六〇〇円の割合による金員を支出したものと推認される。

(4) 通院費 金三万五八四〇円

原告康夫が実日数六四日間通院したことは前記認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、その自宅から病院までのバス代金は往復五六〇円であつて、これに右日数を乗じた金員を支出したものと認められる。

(5) 休業損害 金 一四八万三一一〇円

原告康夫の休業損害及び逸失利益の算定について、同原告主張の民宿の収益に拠り難いことは、亡壽子に関して前述したところと同様であつて、その算定にあたつては、前記賃金センサスの男子労働者年齢別平均給与額を基準とするのが相当である。そして、前掲甲第一九号証及び同原告本人尋問の結果によれば、同原告は当時二六歳であリ、本件事故により前記認定の入・通院期間中休業を余儀なくされたことが認められるから、同原告の休業損害は、右賃金センサスの二六歳の男子労働者の平均給与月額すなわち一か月金一四万三六〇〇円に一年間の賞与金四五万七五〇〇円の月割額金三万八一二五円を加えた金一八万一七二五円を基礎に算出して得た金一四八万三一一〇円(八か月と五日分)となる。

(6) 後遺障害による逸失利益 金一〇二三万三二四三円

前記通院終了後である昭和五二年五月四日当時、原告康夫は二七歳で、前示の後遺障害を残したものであり、特に左足関節の背底屈は、相当程度制限を来していることが認められる。事故後現在までの生活状況や職種等をも勘案して、同原告は就労可能年数六七歳までの四〇年間にわたり労働能力の二〇パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。

したがつて、昭和五二年度賃金センサスの男子労働者の二七歳の平均給与額年収二三六万四一〇〇円につき、労働能力喪失率二〇パーセントを乗じ、新ホフマン式計算方法(新ホフマン係数二一・六四三)により中間利息を控除して得た金一〇二三万三二四三円が、同人の逸失利益と認められる(計算式は次のとおり)。

2,364,100×0.2×21.643=10,233,243(円)

(7) 慰藉料 金二五〇万円

前記入・通院期間中の苦痛に対し金七〇万円、後遺障害による苦痛に対し金一八〇万円の慰藉料が相当と認められる。

(8) 葬儀費用 金四〇万円

前記のとおり、亡壽子の葬儀費用が同女自身の損害と認められない場合、夫である原告康夫の損害として請求する趣旨と解されるところ、その負担による損害は、弁論の全趣旨に照らし、金四〇万円と認めるのが相当である。

3  原告洋子関係

(一)  成立に争いのない甲第一一ないし第一三号証、同第一七号証、乙第一七号証及び同第一九号証並びに原告洋子本人尋問の結果によれば、請求原因3(三)(1)(原告洋子の傷害及び後遺障害)の事実が認められ、右認定を左右すべき証拠はない。

(二)  原告洋子の損害額

(1) 先ず、休業損害及び後遺障害による逸失利益について検討する。

原告洋子本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第二一及び第二六号証、右本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、同原告は、昭和五〇年一二月頃、自宅を改造して客席一〇前後のスナツクを開業し、パートの従業員を雇い入れて営業していたこと、帳簿上、昭和五一年六月一日から本件交通事故前日の同年八月二八日までの総売上額は金二〇八万八九〇〇円、一方、飲食物やその材料の購入費、パート従業員に対する支払は合計五九万一六〇〇円であつたことが認められる。しかし、同原告についても、当然に予想されるその他の諸経費の支出状況は明らかではないし、性質上、右記帳の売上額が正確な現金収入額を示すものか疑問なしとしない。もつとも、右の職種からみて、同原告の収入を直ちに一般女子労働者のそれに比準することは妥当を欠くけれども、前記記帳額から算出される純日収一万六八二三円をそのまま採用することは到底できず、その七割にあたる一万一七七六円の限度でこれを認めるのが相当である。したがつて、同原告が前記入・通院期間(二五四日)の全部につき休業を余儀なくされたとした場合、右休業による損害額は二九九万一一〇四円となる。

次に、右スナツクの開店日数すなわち同原告の稼働日数は、年間三〇〇日程度と推認されるから、年間の純収入額は三五三万二八〇〇円と計算される。ところで、同原告は当時二八歳で、等級表第一二級一四号に相当する後遺障害を残したと認められるから、就労可能年数三九年間にわたり、労働能力の一四パーセントを喪失したと推認すべく、右年収額を基礎として計算すると、次のとおり、その逸失利益の現価は金一〇五〇万一〇五〇円となる。

3,532,800×0.14×21.309=10,539,260(円)

以上のとおり、同原告の休業損害及び後遺障害による損害の額は、合計金一三五三万〇三六四円と認められる。

(2) 右のとおりとすれば、原告主張の他の損害項目(請求原因3(三)(2)のイ、ロ、ハ、ニ及びト)の主張を全部そのとおり是認したとしても、全損害額は一五八五万〇二五四円となる(右以上の金額を認定すべき証拠はない)。

(3) ところで、原告洋子の損害については、前述のとおり、訴外菅一の前記過失を斟酌して七五パーセントを減ずべきものである。よつて、同原告の過失相殺後の損害額は多くとも金三九六万二五六四円となり、前記争いのない自賠責保険金四二七万〇二九八円によつて、既にその全額が填補されたこととなる。したがつて、同原告については、その余の主張事実につき判断するまでもなく、その請求は棄却を免れない。

四  損害の填補(原告康夫及び一樹)

請求原因4(損害の填補)の事実については当事者間に争いがない。亡壽子に対するものは、原告康夫及び一樹が相続分に応じて受領したとみられるから、結局、原告康夫が賠償を求め得べき残額は金九七九万二三三九円、同一樹についてはその残額は金五三九万〇七三九円となる(左記計算式参照)。

原告康夫の損害賠償額(但し弁護士費用を除く。)

(14,985,044+26,194,989×1/3)-(7,888,075+18,108,880×1/3)=9,792,339(円)

原告一樹の損害賠償額(但し弁護士費用を除く。)

(26,194,989×2/3)-(18,108,880×2/3)=5,390,739(円)

五  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告らは被告らに対し、損害の賠償を求めて交渉したが任意の支払を得られなかつたため、原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任して相当額の費用、報酬の支払を約したことが認められるところ、本件事案の内容、審理の経過及び認容額に鑑みると、原告康夫につき金六〇万円、同一樹につき金四〇万円の弁護士費用を被告らに負担させるのが相当であり、原告洋子についてはこれを否定すべきである。

六  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求は、原告健夫については被告らに対して各自金一〇三九万二三三九円並びに内金九七九万二三三九円に対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかである昭和五三年一一月四日から及び内金六〇万円に対する本判決言渡の日の翌日である昭和五七年二月四日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告一樹については被告らに対して各自金五七九万〇七三九円並びに内金五三九万〇七三九円に対する前記昭和五三年一一月四日から及び内金四〇万円に対する前記昭和五七年二月四日から各支払ずみまで前同割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれを認容し、右原告両名のその余の請求を棄却し、原告洋子の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条本文、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 田川雄三 岡久幸治 黒岩巳敏)

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